食器 2019.5.02
日本の焼き物産地《九州地方:その1》小石原焼、上野焼、有田焼、唐津焼、三川内焼
古くから焼き物作りが行われてきた、日本。
全国各地に様々な陶磁器の産地が点在しています。
今回は、九州地方の伝統的工芸品に指定されている焼き物をご紹介します。
小石原焼(こいしわらやき)【福岡県】
小石原焼は江戸時代初期(1682年)に伊万里の陶工を福岡に招き、磁器を伝えたところから始まりました。
素焼きはせず釉薬をかけて焼き上げる陶器であり、「飛び鉋(とびかんな)」「刷毛目(はけめ)」「櫛目(くしめ)」「指描き」
「流し掛け」「打ち掛け」「ぽん描き」などと呼ばれる技法で付けられた独特の幾何学的な文様が特徴です。
昔からあるのに、どこかモダンな雰囲気の小石原焼。
現代では、どこか北欧を感じるようなデザインとしてその人気がさらに高まっています。
・飛び鉋 :生乾きの生地に化粧土をかけた器をロクロで回転させながら、
弓形のように曲がった鉋の刃先で規則的に化粧土部分を削り取って模様をつける技法です。
リズミカルで均等な模様が特徴になります。
・刷毛目 :化粧土をかけてすぐの器をロクロで回転させながら、刷毛を当てて線で模様をつける技法。
刷毛の当て方で細い線や太い線の模様に強弱が生まれます。
・櫛目 :刷毛目と同様に化粧土をかけてすぐの器に、先端が細かく別れた櫛状の道具で波型などの模様を入れる技法。
ロクロで1回転して一つの櫛目ができあがります。
・指描き :化粧土をかけた器をロクロで回転させながら指で模様をつける技法。
・流し掛け :ロクロを静かに回転させながら、焼き物の生地の表面に化粧土や釉薬を等間隔に流していく技法。
小石原焼は素焼きを行わずに釉薬を流し掛けて本焼きをするため、この流し掛けが作品の仕上がりを大きく左右することになります。
・打ち掛け :成型した焼き物の表面に釉薬を少しずつ掛けていく技法。
生地にそのままかける方法と釉薬をかけたうえにさらにかける方法があります。
・ぽん描き :竹の容器の口から流れ出る釉薬を調整しながら一気に描きあげる技法。
釉薬の量の調節とスピードが重要となります。
上野焼(あがのやき)【福岡県】
1602年、茶道の礎を築いた千利休から教えを受けた豊前小倉藩初代藩主・細川忠興が
李朝の陶工である尊楷を招いて開窯したのが始まりとされています。
上野焼は、日本独自の芸道である茶道で用いられる「茶陶」をルーツに持つため、一般的に薄作りで軽いことが特徴。
また、釉薬掛けだけで表現する為、様々な種類の釉薬を用いることで生まれる多彩さも注目です。
中でも特に印象的なのが緑青釉です。これは緑がかった青色で上野焼といえばこの色が特徴的といえます。
目立ちすぎず、それでいてどこか存在感はある。それが上野焼の魅力です。
伊万里/有田焼(いまり・ありたやき)【佐賀県】
元和2年(1616年)、朝鮮人の陶工・李参平が日本で初めて白磁を焼いたことが有田焼の始まりとされています。
当時は伊万里港から有田焼を船で積み出していたため「伊万里焼」とも呼ばれました。
伊万里・有田焼は、ガラスのような透明感がある白磁と華やかなで繊細な絵付けが特徴です。
作られた時期や様式により「初期伊万里様式」「柿右衛門様式」「鍋島様式」「金襴手様式」「禁裏様式」などの種類に分けることができます。
・初期伊万里様式:青みを帯びた白地に、青色のみで草花や鳥などの生き物が描かれたシンプルな染付(そめつけ)が特徴。
ぽってりと厚みがあり、絵付けの前に素焼きを行わない「生掛け」技法を用いて焼成しているので、表面がしっとりと滑らかです。
・柿右衛門様式 :「濁手(にごしで)」と呼ばれる柔らかく温かみのある乳白色の素地に余白を十分に残し、極めて繊細な黒い線と色鮮やかな赤・緑・黄・青などで絵付を施すのが特徴。
また、大和絵的な花鳥風月「岩梅に鳥」「もみじに鹿」「竹に虎」「粟に鶉」などの典型的な図柄にも特徴があります。
濁手素地の白の美しさを活かすため余白を多くとったデザインになっており、「余白の美」とも称されます。
・鍋島様式 :藩御用達の藩窯で焼いた鍋島藩御用のもの。
有田地方を擁する鍋島藩は、日本国内向けに幕府に献上したり大名に贈ったりするための最高級磁器を作っていました。
呉須だけで絵付けし輪郭がはっきりと描かれた「鍋島染付」、呉須の他に赤絵を用いて輪郭を描き、赤・緑・黄の3色のみで上絵付けされた「色鍋島」、
青磁釉をかけるだけで、他の絵付けなどは行わない「鍋島青磁」というものに分別されます。
幕府献上品として採算度外視で作られた極彩色の染色技術や、高台に「櫛高台(くしこうだい)」と呼ばれる縦縞模様が見られるのが特徴です。
・金襴手様式 :赤や金の絵具を贅沢に使用し柿右衛門様式に見られるような余白は少なく、器いっぱいに色絵が描かれた豪華絢爛な絵付が特徴。
日本的な「侘び・寂び」の美意識とは対極にある世界観を醸し出しており、異国情緒溢れる趣となっています。
・禁裏様式 :天皇家に納められたもの。
白い素地に色鮮やかに描かれた美しい絵柄と耐久性に優れた有田焼は、現在も日用品として、また美術品としても愛用されています。
唐津焼(からつやき)【佐賀県】
唐津焼は1580年代頃、岸岳城城主波多氏の領地で焼かれたのが始まりとされています。
東日本の陶磁器を「瀬戸物」というのに対し、西日本の陶磁器を「唐津物」と称すほど一般に普及した焼き物です。
唐津焼はざっくりとした土の質感、「土味」が魅力です。
また、「作り手八分、使い手二分」という言葉があり、料理を盛る、茶を入れるなど使ってもらって完成という「用の美」の考えをあらわしています。
唐津焼には非常に多くの種類があり、土の性質や釉薬、技法などにより分類されます。
・無地唐津(むじがらつ) :文様のない、土灰釉や長石釉をかけただけのもの。
・絵唐津(えがらつ) :鬼板(おにいた)と呼ばれる鉄絵具で文様を描き、釉薬をかけて焼き上げたもの。
モチーフは草、木、花、鳥、人物や線文・幾何学文など多岐にわたります。
唐津焼の中ではもっともポピュラーな種類とされており、向付や皿、鉢などに多く用いられています。
・斑唐津(まだらがらつ) :藁灰(わらばい)などを混ぜた失透白濁する釉薬をかけたもの。
粘土中の鉄分や窯を炊く燃料である松の灰が溶け出し、乳白色の表面に青や黒の斑点がぽつぽつと現れることからそう呼ばれています。
別名「白唐津」とも呼ばれています。茶碗や猪口(ちょこ)に多く用いられています。
・奥高麗(おくごうらい) :朝鮮半島で作られた高麗茶碗を手本として作られたもので、井戸、熊川(こもがい)、呉器、柿の蔕(へた)などの形をしています。
釉は長石釉で、白、枇杷色、薄い柿色、淡い青磁色など様々です。
・朝鮮唐津(ちょうせんがらつ):鉄分の多い鉄釉(黒釉または飴釉)と斑唐津にも用いられる白濁を、上下または左右に掛け分けたり、不規則に塗り分けたりしたもの。
鉄釉の黒と藁灰釉の白の美しいコントラスト、境界に生まれる青や紫、黄色などの繊細な色や流れ落ちる多彩な表情が特徴的であり、
表面に現れるその変化は自然の風景に見立てた「景色」を表現しています。
朝鮮唐津は伝統的なスタイルとして有名で、水差しや茶器などで多く用いられています。
・彫唐津(ほりがらつ) :成形後、素地がまだ生乾きのうちに竹ベラや櫛などで、幾何学的で単純な紋様を彫り、長石釉や斑釉等をかけて焼いたもの。
・彫絵唐津(ほりえがらつ) :彫唐津の彫った部分に鬼板を塗ったり、描いたりしたもの。
・三島唐津(みしまがらつ) :器がまだ生乾きのうちに、印花紋、線彫、雲鶴(うんかく)などの文様を施し、化粧土を塗って、
削りまたは拭き取り仕上げをした後に、長石釉や木灰釉をかけ焼き上げたもので、象嵌(ぞうがん)の一種です。
朝鮮の李朝三島の技法を伝承したことから、三島唐津と呼ばれています。
茶碗などの茶器によく用いられ、日本の多くの産地にその類型を見ることができます。
・粉引唐津(こびきがらつ) :褐色の粘土を使い、素地がまだ生乾きの時に白色の化粧土を全面に掛けて乾燥させた後、長石釉や木灰釉を掛けたものです。
「粉を引いた(吹いた)ように白い」といわれたことから、この名がついたと言われています。
古くから朝鮮で用いられた技法ですが、古唐津には粉引は見られず、近代になって取り入れられた比較的新しい技法です。
・絵粉引(えこびき) :粉引唐津に絵付けしたもの。
・黒唐津(くろがらつ) :黒釉(鉄分を多く含んだ木灰釉)をかけて焼いたもの。
鉄分の量や酸化の度合いにより、飴色や柿色、黒褐色など幅広い色彩を生み出しますが、全て黒唐津と呼ばれています。
ぐい呑みや片口、皿として広く用いられています。
・青唐津(あおがらつ) :木灰釉や灰釉を素地に掛け、還元炎焼成したもので、素地の中に含まれている鉄分により青く発色したもの。
・黄唐津(きがらつ) :木灰釉や灰釉を素地に掛け、酸化炎焼成したもので、素地の中に含まれている鉄分により枇杷色に発色したもの。
・瀬戸唐津(せとがらつ) :白土質の上に白色の釉を厚くかけてつくった瀬戸焼風のもの。
・備前唐津(びぜんがらつ) :釉薬をかけないで作成したもの。
・二彩唐津(にさいがらつ) :素地に化粧土を刷毛で塗り、酸化銅の緑と鬼板の茶で文様を描いたもの。
・刷毛目唐津(はけめがらつ) :泥漿にした化粧土を刷毛で素地に塗る装飾技法。
刷毛目は穂先の種類・化粧土の濃度・力加減で多彩な装飾が可能です。
・打ち刷毛目(うちはけめ) :素地に刷毛を打ち付けて連続模様をつける手法。
・櫛刷毛目(くしはけめ) :藁の芯や大根、人参などで作った櫛を使って文様を描いたもの。
三川内焼(みかわちやき)【長崎県】
三川内焼は、1592年(天正20年)と1597年(慶長2年)頃に行われた、豊臣秀吉による朝鮮出兵がルーツとなっています。
三川内焼は白磁に呉須で藍色の絵付けを行い、松の木の下で蝶とたわむれる中国の子どもを描いた「唐子絵(からこえ)」と呼ばれる図柄が特徴です。
男の子たちが元気に遊ぶ様子は、幸福と繁栄の象徴と表すおめでたい図柄として三川内焼では古くから描かれてきました。
この「唐子」はかつては「献上唐子」と呼ばれ、庶民は手にすることができませんでした。
唐子の人数によって等級が異なり、松の木で戯れる唐子の人数が7人なら朝廷や将軍家、5人なら諸大名、3人なら一般武家と厳しく定められていたそうです。
また、「透かし彫り」や「置き上げ」といった技法を用いた、繊細で躍動感のある造りが特徴です。
・透かし彫り :軽やかさを演出する透かし彫り。
焼成前の磁器の素地が乾く前に、透かしを彫ってゆく。
・置き上げ :彫刻ではなく、ペースト状の磁器を幾重にも塗り重ねて盛り上げて描く技法。
龍や鶴、唐獅子などのモチーフは彫刻のようにみえます。
・貼り付け :複数の飾りを貼り重ねて作る装飾方法。
・卵殻手(らんかくで):「薄手磁器(厚みが1ミリ程の薄い素地のもの)」の総称。卵の殻の様に薄いことから「卵殻手」と呼ばれます。
生地は純白で描かれた模様が透けて見え、手取りは軽くその重さを感じないほどです。
また、白磁特有の透明性から、光を当てると素地が柔らかな白色の電球のように変わります。
おわりに
いかがでしたか?
素敵な器は食卓を美しく演出するだけでなく、気分も華やかにしてくれるものです。
日本の焼き物は海外でも人気で、世界に誇れる文化のひとつといえます。
次回は《九州地方:その2》の焼き物をご紹介します。
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