食器 2019.3.19
1000年の歴史を持つ窯『日本六古窯(にほんろっこよう)』
「日本六古窯」という言葉をご存知でしょうか。
日本古来の陶磁器窯のうち、中世から現在まで生産が続く
6つの窯(信楽・備前・丹波・越前・瀬戸・常滑)を総称して「日本六古窯」と呼んでいます。
日本六古窯は、日本生まれ日本育ち、生粋の「日本の焼き物」とされています。
これらの窯で焼き上げられる陶器は、産地の特色を生かした独特なものになります。
今回は、日本の焼き物「日本六古窯」の歴史や特徴についてご紹介します。
信楽焼(滋賀県甲賀市信楽町)
信楽焼が作り始められたのは13世紀後半。
釉薬を施さず、高温で素地を焼き締める「焼締陶器」としてはじまった信楽焼は、
長石と石英の砂粒を含む荒い素地と、赤褐色の地肌にガラス化した自然釉と焦げが
混じり合って生み出される独特の景色がその魅力です。
その素朴さと侘び寂びの美により、多くの茶人達に愛されてきました。
信楽焼の代名詞ともいえるたぬきの置物が誕生したのは昭和前期。
昭和26年の昭和天皇の信楽行幸にて、主力製品である火鉢を積み上げてアーチをつくり、
日の丸の旗を持たせた信楽たぬきを並べ、奉迎しました。それを見た昭和天皇は喜ばれ
「おさなとき あつめしからに なつかしも しがらきやきのたぬきをみれば」と歌に詠まれました。
この時の報道をきっかけに、信楽焼のたぬきが全国の注目の的に。
特に「他を抜く」との意味から「たぬきの置物」は商売繁盛のお守りとしても人気です。
備前焼(岡山県備前市伊部)
平安時代に庶民の日用品として碗・皿・瓦などが生産されたのが始まりです。
備前焼は、良質の土を一点づつ成形し、乾燥させたのち、釉薬を一切使用せずに
そのまま約2週間前後1,200度以上の高温で焼き締められます。
釉薬を使わないため、土感を感じられる味わい深い質感のある焼き物に仕上がります。
焼き味の景色は1点1点異なり、緋襷、胡麻、棧切、牡丹餅などの変化に富んでいます。
緋襷(ひだすき) :陶器同士がくっつかないように敷いた藁が焼けた跡です。
藁のアルカリと土の鉄分との化学反応で緋色を呈します。
胡麻(ごま) :焼成中に薪の灰がかかり胡麻のような景色になったものです。
その状態によって黄胡麻、カセ胡麻などと呼び分けられます。
桟切(さんぎり) :還元焼成させてできた青・黒い部分を指します。
灰に埋もれるなど不完全燃焼の部分が桟切となります。
牡丹餅(ぼたもち):器面についた丸い跡でまんじゅう抜けともいいます。
徳利など円形のものを置いて炎や灰が当たらないようにして得られます。
また、高温で焼き締められているのでほかのやきものと比べても強度が高く、
表面に微細な凹凸や気泡があるためお酒やワイン、ウイスキーを入れるとまろやかでこくのある味になる、
といった利点が豊富に揃った、お酒好きにはぜひ使っていただきたい焼き物でもあります。
丹波焼(兵庫県篠山市今田町立杭)
丹波焼の発祥は、平安時代末期から鎌倉時代初期にさかのぼります。
穴窯時代は「小野原焼」と呼ばれていましたが、登り窯時代になってからは、
現在の呼び名「丹波焼」や丹波立杭焼(たんばたちくいやき)や立杭焼などとよばれています。
丹波焼の最大の特徴は、窯の中で約1,300度の高温で50~70時間に渡って焼き締められることによって
器の上に降り積もった燃えた薪の灰が原土の中に含まれた鉄分と融け合い、
自然発色する自然釉と呼ばれる独特な色と模様です。
炎の当たり方によってもひとつずつ違った表情を見せるのが丹波焼の面白さです。
江戸時代以降は釉薬の使い方や技法も多様になりましたが、
今もなお、伝統的な風合いを引き継いだ丹波焼が作られています。
丹波焼ならではの「蹴りロクロ(日本では珍しい立杭独特の左回転ロクロ)」といった独特の技術も
現代に継承されています。
越前焼(福井県丹生郡越前町)
越前のやきものの起源は約1,300年前にまでさかのぼりますが、産地としてのはじまりは約850年前の平安時代末期。
壺・甕・すり鉢の3器種を中心とした生活雑器として主に使用されていました。
耐火度が高い土を使っているため1,200℃を超える高温で焼き締めます。
また、石英などのガラス成分を多く含むため、焼き固めた際に土の粒子間にガラス質が
流れ込んで隙間を埋め、硬く緻密に仕上がります。
越前焼に使われる土には鉄分が多く含まれ、表面が赤黒色や赤褐色の焼き上がりとなり、
黄~緑色の自然釉が勢いよく表面を流れている景色は頬を流れる涙に見立てられ「涙痕(るいこん)」とも呼ばれます。
焼き締まった肌に複雑な色の自然釉が流れる様子は、素朴ながらも力強い越前焼の特徴をよくあらわしています。
瀬戸焼(愛知県瀬戸市)
瀬戸で焼き物が始まったのは古墳時代にまで遡ると言われています。
約1,000年前から一度も途切れずやきものの生産を続けてきた、世界的にも稀有な産地。
日本で陶器一般を指す「せともの」という言葉は、瀬戸焼からきています。
日本の焼物には、地域ごとに強い個性がありますが、瀬戸で作られたものの一番の特徴は釉薬がかけてあること。
鎌倉時代、当時の六古窯のなかで、器の強度を高めるために釉薬をかけて焼くという技法をとっていたのは瀬戸焼だけでした。
釉薬がかかった焼き物は素焼きに比べて耐水性に優れ、彩色する色の幅が広がり、釉薬ならではの光沢や色、模様がつきます。
現在生産している品種は、和洋食器にとどまらず、ノベルティ、建築陶材、碍子、ファインセラミックスなど多岐に渡ります。
このような焼き物産地は世界のなかでも瀬戸だけといえるでしょう。
常滑焼(愛知県常滑市)
常滑焼のはじまりは平安時代末期。
古常滑とよばれる初期のものは大変歴史が古く、六古窯の中でも最古で最大規模。
常滑焼の特徴のひとつが、原料に含まれている鉄分を赤く発色させる技法です。
常滑焼で最も有名なものは、無釉で焼き締めた赤い色をした朱泥(しゅでい)急須。
酸化鉄を多く含んだ朱泥急須は、外観が赤いという特徴だけでなく、お茶を美味しく飲むことに大変適したものとなっています。
この常滑焼の急須でお茶を淹れると、急須に含まれる酸化鉄と、お茶の成分であるタンニンが反応し、
お茶の苦み渋みがほどよくとれて、まろやかで美味しい味わいになるのです。
おわりに
いかがでしたか。
一つとして同じものがない焼き物は見ているだけでも飽きることがありません。
それぞれの土地で焼かれる陶器を比べてみるのもおもしろいですね。
日本の焼き物の歴史や特徴を知ることで、その器が持つ魅力がぐっと増すはずです。
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