食器 2019.4.08
日本の焼き物産地《中部地方》九谷焼 美濃焼 赤津焼
古くから焼き物作りが行われてきた、日本。
全国各地に様々な陶磁器の産地が点在しています。
今回は、中部地方の伝統的工芸品に指定されている焼き物をご紹介します。
九谷焼(くたにやき)【石川県】
色とりどりの絵付けが目を引く、九谷焼。
九谷焼のはじまりは、江戸時代初期の1655年。
加賀藩の命により、有田で陶技を学んだ後藤才治郎が、江沼郡九谷村で開窯したのが始まりです。
しかし、九谷の窯はおよそ数十年後に突然閉じられ、完全に生産は途絶えてしまいます。
生産終了の理由はいくつか想定されますが、明確な証拠は見つかっておらず、今日まで「謎」として残されたままです。
この時期に作られた九谷焼は、後世「古九谷(こくたに)」と呼ばれ、色彩の美しさが特徴的な色絵磁器で、
不透明な白地の素地に、花鳥、山水、風景の図柄が大胆な構図で描かれたものが多くあります。
「古九谷」が廃窯して約100年。
江戸時代後期の1806年、九谷村から遠く離れた加賀藩営の金沢の地「春日山窯(かすがやまかま)」にて復興しました。
九谷焼の特徴はいくつかありますが、古九谷、九谷ともに有名なのはその色使い。
ひとつは「九谷五彩(くたにごさい)」と呼ばれる、緑・黄・紫・紺青・赤からなる5色の色絵具使いです。
そして、細い赤色の線が描き出す緻密な「赤絵細描(あかえさいびょう)」、盛り上がった緑色の点が鮫皮のような「青粒(あおちぶ)」も特徴的です。
「上絵付けを語らずして九谷はない」と言われるほど、色絵装飾の素晴らしさは、豪放華麗です。
九谷独特の、やや青みを帯びた素地がその落ち着いた色調で、上絵付けを一層引き立てます。
現代ではその多色づかいを生かした可愛らしいデザインやモダンなデザインも増え、より種類豊富で個性も豊かな九谷焼を楽しむことができます。
※上絵付け:本焼きした陶磁器の釉薬の上に顔料で紋様を描き、再度焼く技法のこと。
九谷焼や有田焼などに広くその技法が用いられています。
美濃焼(みのやき)【岐阜県】
国内の食器類のシェア60%以上を占めるのが、美濃焼。
美濃焼は、5世紀頃に朝鮮半島から須恵器とろくろ、穴窯が伝えられたことを機に始まります。
平安時代には、灰釉を施した白瓷(しらし)という、須恵器を改良し釉薬を使った陶器が焼成されました。
茶の湯が流行した安土桃山時代。
自由な造形、大胆かつ繊細な絵付け、豊かな色彩など個性あふれる作風の「美濃桃山陶」と呼ばれる美濃焼が登場。
中でも「黄瀬戸」「瀬戸黒」「志野」「織部」と呼ばれるやきものは時代を越えて愛され、今なお美濃焼の基礎となっています。
・黄瀬戸(きせと):黄瀬戸の黄色は木灰と素材の土に含まれている鉄分を
酸化焼成(窯に酸素が多い状態で焼成)にすることで得られる色です。
黄瀬戸は大別して二つに分けることができます。
ひとつは「油揚げ手」。
釉肌がざらっとした手触りの柚子肌で一見油揚げを思わせる色のもの。
光沢が鈍く釉薬が素地に浸透しているのが特徴。
胆礬(たんぱん:硫酸銅の釉)の緑や、鉄釉の焦げ色を伴うものが代表的。
また、多くの場合、菊や桜の印花が押されていたり、菖蒲、梅などの線彫り文様が施されており、
この作風の代表的な作品「菖蒲文輪花鉢」にちなんで「あやめ手」とも呼ばれます。
もうひとつが「菊皿手」。
明るい光沢のある黄釉で文様がないもの、菊型や菊花文の小皿に優れたものが多かったことからこう呼ばれます。
また、六角形のぐい呑みが茶人に好まれたことから「ぐい呑み手」などとも呼ばれます。
この手の釉には細かい貫入が入っています。
・瀬戸黒(せとぐろ):土灰(どばい:雑木を焼いた灰)に鬼板(おにいた:酸化鉄、マンガンなどを含む天然材料)等を合わせた鉄釉で、
特徴的な漆黒の肌を生み出しています。
焼成中の窯の中から引き出して急冷することにより、釉薬に含まれる鉄分が黒く発色します。
これを「引き出し黒」といい瀬戸黒のほか、黒楽・織部黒・黒織部などに使われる技法です。
瀬戸黒の釉調は艶のある黒色と、器面を走る細かい貫入がひとつの特徴といえます。
・志野(しの):志野は純白の雪のような肌が特徴で、日本に初めて生まれた白い焼物です。
鉄分の少ない白土に「志野釉」とも呼ばれる白い長石釉をたっぷりとかけて焼くことで作られます。
その際、表面にはピンホールという小さな穴がたくさん生じ、釉のかけ方も無造作な為ムラが出き、
緋色(ひいろ)とよばれるほのかな赤みが全体に生じます。
白素地に志野釉を掛けただけの「無地志野」を基本に、下地に鉄化粧を施して焼いた「鼠志野」「赤志野」、
赤ラクと呼ばれる土で化粧し、その上から志野釉を施した「紅志野」、文様や絵を描き志野釉を施した「絵志野」、
白土に赤土を練り込んで作る「練込志野」などがあります。
・織部(おりべ):織部とは桃山時代の茶人「古田織部」が好んで作らせたといわれる形式を持ったの器の総称です。
ほかの焼物にはない自由で豪快なフォルムや、幾何学的紋様の装飾が魅力。
多くの種類がある織部の中でも、銅緑釉をかけた「青織部」は有名ですが、鉄分の多い赤土を素地とした「赤織部」、
器全体に黒釉をかけた「織部黒」、銅緑釉と鉄絵を組合せた「絵織部」などがあります。
赤津焼(あかづやき)【愛知県】
赤津焼の始まりは奈良時代の須恵器にまでさかのぼります。
赤津焼の特徴は、7種類の釉薬(灰釉・古瀬戸釉・鉄釉・黄瀬戸釉・志野釉・織部釉・御深井釉)と、
『へら彫り』『印花』『櫛目』『三島手』など12種類の多彩な装飾技法にあります。
《7種類の釉薬:主な色の特徴》
釉薬の種類は色で見分けられます。
・灰釉(かいゆう) :薄黄緑・茶色
・古瀬戸釉(こせとゆう):黄色・土色
・鉄釉(てつゆう) :黒・焦げ茶
・黄瀬戸釉(きせとゆう):黄色
・志野釉(しのゆう) :白・ピンク
・織部釉(おりべゆう) :緑・黒
・御深井釉(おふけゆう):青
《12種類の装飾技法》
・へら彫り :素地にへらで彫って模様を付ける。
・印花 :乾燥前の素地に型を押しつけて模様を付ける。
・櫛目 :素地の表面が軟らかいうちに、竹櫛や金櫛を使って平行線、波形、渦巻、点線等の模様を描く。
・三島手 :朝鮮から伝えられた技法で、濃いネズミ色の地に白い土で菊の花の模様等を表す。
・へら目 :器表面に残されたへらによる削り跡、撫で跡、押し跡、彫り跡などのこと。
とくに意識的につけられたへら跡の装飾文様をいい、へら跡の様子から、
「縦へら目」「横へら目」「彫りへら目」「平へら目」「筋へら目」などと呼ばれる。
・たたき :器の内側に当て木を当て、外側から叩き板で叩き締めながら成形する
・削り目 :ろくろ仕上げのときに使ったかんなや削りべらの跡。
・そぎ :土を成形した後に溝や起伏などを削って形に変化を与える技法。
・布目 :器の表面についた型づくり時の布跡のこと。布は麻製の蚊帳が多く使用されている。
・透かし彫り:器面の一部をくり貫いて模様を表す装飾技法。
・浮かし彫り:器面を彫り、素地から文様が浮いて見えるように装飾する技法。
・張り付け :器面に粘土を張り付ける事により立体感を出す。
いかがでしたか?
元々はかなり派手な絵付けがされていた「九谷焼」。
現在ではモダンにアレンジされているものもあり、 普段使いがしやすくなっています。
食卓の雰囲気アップに九谷焼アイテムを取り入れてみてはいかがですか。
次回は《近畿地方》の焼き物をご紹介します。
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